少林寺気功、または武術の修業において、最初に学ぶ基礎の型としてあるのが、(動作としては「四段功」ですが)「站椿功(たんとうこう)」です。
中国には、「100練より、一つの站椿功」という言葉があります。私たちが心身を鍛える場合、たくさんの方法はありますが、動作をより正確に、また要領よくできなければ、ただの体操になってしまいます。しかし站椿功の構え(姿勢)は体だけではなく、「心」も根本から鍛えることができる型であり、どの型の練習より、心身を強くすることができるのです。この站椿功の構えは、少林寺だけではなく、たとえば相撲の四股を踏む姿勢や空手にも鍛錬を目的とする似たような型があります。なお中国では、馬にまたがるような姿勢から「馬歩」とも言います。
少林寺の站椿功は、単に姿勢を低くして下半身の筋力を高めるというだけではありません。実はこの姿勢で保ちながら、全身の無駄な力を抜いて行ってるのです。その状態により、全身に「気」の通りが良くなっていくのです。站椿功の姿勢になると、すぐに「気」は下丹田に集まります。これはとても不思議な現象とも言えるでしょう。この“自然現象”は実際にしてみないことには、体感できません。どうぞ、一度構えてみましょう。また両手には、それぞれレンガを一つずつ持って、腰を下げてみると(自然と)下丹田に力が入っていくのが分かります。そして「気」が、そこに集まってくるのです。そのため体に気を集めて練習をしようとするならば、まず站椿功を実践することが一番なのです。
また站椿功の姿勢は、下半身を安定且つ不動の状態になり、逆に上半身は空虚の状態になります。体勢がどっしりと安定しており、「気」が下丹田に集まり、また下半身に流れ、充実していきます。こうなれば倒れにくい構えとなり、いくら脚を蹴られても崩れません。その脚はまるで太い木のようになり、それを蹴っているようなものであります。ですから站椿功のままで保てば、全身(特に下半身)の「気」が大地の「気」と一つになっていくのです。そうなれば、人間と宇宙(地球)が一つになるのです。
さらにその脚は、高層ビルの基礎部分のように、しっかり根づいて大地としながります。まさに脚だけでなく、全身が強くなっていくのです。
以上のように、站椿功の型には全身に与える影響が大きいのです。「上虚下実」の状態になり、最強の型とも言えます。そしてこの「上虚下実」になっていれば、心は常に「空」になっています。気と血液が上に(脳のほうに)昇っていくということは、(両手を上げていき、気を上げていくポーズもありますが)脳、または心臓(心)にまるで洪水のように流れ込むように入っていき、頭は混乱して、不安定な状態になりやすくなってしまいます。しかし、気と血液が下へ下がっていくと、上半身は「空(虚)」になり、安定した静かな状態になります。ですから身体は、上半身を「空」にしておけば、心身ともに強靭となるのです。

站椿功の姿勢になると、下半身のバランスが良くなります。人間が立っている時、上半身が重く、下半身が軽い場合には不安定になり、非常にアンバランスな状態であります。逆に上半身が軽く、下半身が重くなれば安定しています。立っている体勢で下半身が安定すると、腹部や脚腰に力(パワー)がつき、身体はとても統一のとれた状態になり、バランスも良く、一番優れた体勢(肉体をつくること)になるのです。
もし武術の練習において、パンチを出すなどの攻撃をする場合、実際には脚から腰へと力が伝わり、そして肩から腕、さらに手へと伸びていくように、下半身がしっかり安定し、力を伝えることができなければ、パンチの威力は発揮させられません。身体というのは統一しており、全体として動いているのです。このため、バランスを良くするためには、全身の統一性を意識させて動かさなければならないのです。もし腕を伸ばす場合には、その持ち上げる力というのは腰から伝わっており、さらに脚が踏ん張って、全身の力を100%発揮させて、力が生まれ、上半身へと伝えているのであります。こうした体勢から生まれる力は、特に身長とは関係がなく、仮に低くても強大な力を生むことができるのです。

「站椿功」の練習は、心身の統一させる訓練の方法でもあります。
站椿功を実践していく上で、呼吸については「腹式呼吸」、または「逆腹式呼吸」などで行っていきます。こうした呼吸に意識をして行っていくことにより、全身の隅々までの細胞を活かすことができ、各細胞と細胞の間、各組織と組織の間、さらに各器官と器官とのシステムは、すべてつながります。特に精神(心)と肉体は高いレベルでつながります。この体の内面がつながるということは、非常に重要なことです。そのため腹式呼吸を意識して実践していくと、心と体のつながりはさらに増していき、強くなってくのです。
站椿功を大きな気のボールがあるようにイメージ(手のひらの労宮を下丹田に向けて、ボールの中心は下丹田です。その表面に触れているような姿勢)して行うと、下丹田のところに気のエネルギーは、どんどん集まってきます。このイメージによって、気のエネルギーのパワーはさらに強くなり、体中に行き渡り、全身の隅々の細胞まで染み込んでいくのです。実践はなんとなくせずに、しっかりイメージをしながら行っていけば、エネルギーはどんどん集まって増えていくのです。そして増えれば増えるほど体中の気が充満の状態となり、心身ともに強靭となるのです。站椿功は、イメージがとても重要なのです。
こうして根本的から身体は強くなり、さらに心を元気に強くさせるため、「精、気、神」が強くなります。

「站椿功」の実践は、じっと動かない姿勢で行いますが、初心者には大変辛いと感じる体勢でしょう。今年の1月に「NHK〈武井壮氏 少林寺修業の旅〉番組の放映の中で、メインで登場した(芸能界唯一のスポーツマンである)武井荘さんが、塔溝武術学校で修業した中で「站椿功」を実践しましたが、始めは辛く、少しもできませんでした。身体が站椿功の姿勢に慣れていませんから、非常に辛いのです。しかし、我慢して行うということも、(心身を強く上で)乗り越えていくためには必要なことであります。この我慢している状態から、心の忍耐力が生まれ、筋肉質のボディビルダーのような肉体にも負けない、もっと強い心身を鍛えることができるのです。

少林寺武術の站椿功の練習をする場合、始めは120°(膝がほんのちょっと曲がっている状態)にして行います。だんだん直角の90°になるように腰を下ろしていきます。時間も始めは、5分間でも10分間でもいいのです。そこから少しずつ増やしていきます。大事なポイントは、全身の力が抜けているように構えることです。継続により、だんだん実践している時間も長くなります。
どうぞ力を抜いて、リラックスしている状態で行っていくようにいたしましょう。そうすればこの辛い状況から変化が表れ、少しずつ楽しくなっていくのです。また身体に力も感じられるようになっていき、益々、楽しくなっていきます。 
こうして「站椿功」の練習によって、心身は強くなっていくのです。