『少林寺』は、武術、精神、気、また健康として、今や世界的なブランドになりました。

そのためアジアだけでなく欧米など世界中から注目されて、世界の多くのメディア関係が少林寺を取り上げることが増えました。日本でも同様に、ほとんどのテレビ局が少林寺をテーマとする番組を企画・制作し、現地での撮影や取材等を行ってきました。日本の番組では、有名なゲストや俳優などタレントの方々が少林寺を訪れるという内容構成が多いですが、外国の場合、タレントだけではなく、格闘家やボクシングなどの世界チャンピオン、さらには政治家や世界でもトップレベル(大統領など)も少林寺に訪れているという企画もあります。

 今の嵩山少林寺管長(釋 永信 第30代管長)は、(昔と違い)とても開放的な方であります。これまで多くのメディア等の依頼に応じてくれています。ですから少林寺というものをたくさんの番組が制作され、世界中に発信されたおかげで、多くの人々に理解をしていただけました。

 一般的にはお寺というのは興味や関心が低く、メディア等に取り上げられるようなことはありません。しかし少林寺の場合は、そのルーツや武術、そして禅などについて、世の中にもっと理解を広めるため、メディアに対しても積極的に協力してPRしてきました。

 さらに少林寺は20年も前から武僧団の形で「全世界的交流の輪」を広め、少林寺の教え(人間のための仏教)、また武(人間のための武術)を紹介してきました。普通、お寺での教義はそこで修業しているお坊さんのためにありますが、少林寺では全人類のものと考え、広めていく活動をしているのです。

 

 しかし、最近は中国内外のTV番組等で多くのメディアが関心を示す中、芸能人などタレントが修業するような企画内容については、中止し許可をしないようになりました。ですから派手な演出や内容ではなく、落ち着いたもので正統な教えを伝えるような企画内容のみ許可をしている状況です。

 

 今回、NHKの番組はタレントとして活動している武井壮さんが、少林寺で「武」と「禅」、そして「気」を体験(修業する)という内容のものです。当初、NHKの制作担当側から直接、少林寺に依頼を申し出た時には断られたそうです。その後、私に話がきまして、内容をお聞きし、今回の番組企画は「とても良いものになる」と判断しました。これまで当協会が伝えているものと方向性が一致していたため、私からも少林寺の管長に直接お願いしましたら、その趣旨をご理解したいただき「許可」をしてもらえました。

 そして少林寺の高いレベルの「武」と「禅」を伝えるべく管長より直々に、少林寺僧侶の延開氏(私の後輩)に命令しました。彼は少林寺の高い位の武僧の人物ですが、今回、番組内で分かりやすく説明して頂けるよう協力してもらいました。

 なお、今回は万全な準備・交渉をするため、私自身もNHKの関係者と同行いたしました。実はTV局の番組のため、撮影同行するのは私も今回が初めてのことです。これまでも「少林寺世界遺産」の時にNHKやTBSなどから話がありましたし、それ以前にも、いくつかのTV局関係や“少林少女”などの映画関係の方から依頼があった時、私から少林寺の管長に撮影等を頼んだことがあります。ですがこれまでは協会の仕事を「主」としてきましたので、撮影等の同行まではしたことがありませんでした。しかし今回、NHKの番組の主旨がこれまで以上に広く深いものと知り、単に依頼協力ではなく、私自身が同行して、より良いものにしようとしたからなのです。

 

 今回の番組のメインであります武井壮さんについては、皆さんもご存じだと思いますが、スポーツ界においてトップクラスの方で、特に陸上に関しては、No1(陸上競技、十種競技の元日本チャンピオン)とも言えます。いまだに身体能力は抜群に優れていますし、芸能界の中でもとても覚えるのが早いと言われる有名な人物です。

 そのような方ですから、私も彼の少林寺修業の挑戦について、とても面白いと思いました。そのような興味深いところも協力する一因でありました。

 また、少林寺外で「気」を教えられるのは、私しかおりません。昨年5月に開催されました「世界伝統功夫養生大会(主催:嵩山少林寺・全日本少林寺気功協会)」でも世界的アピールをすることができましたが、この番組もすばらしい企画ですから、私自身、さらに良いものを紹介できるよう協力をしました。(今回は、企画内容もすばらしい上に、登場人物もふさわしい方なので、私も同行しました。)

 

 少林寺も今は冬の季節です。とても寒い中、最初は少林寺周辺の塔溝武術学校で武井さんの修業が始まりました。もちろん少林寺の武術は、まったくの初めてです。最初は少林寺武術の基本訓練から始めましたが、馬歩(膝を90度に曲げる)がとても辛いようでした。体力や素質は十分、そして運動能力もとてもすばらしい武井さん。しかし少林寺の武術は、0(ゼロ)からのスタートで訓練が始まりました。人間には慣れていることと慣れていないことがあります。武井さんも慣れていない今回の数日間の修業に、私も見ていて「大変だなぁ!」と思いましたし、本人も相当苦しかったのでは!?と思いました。しかし精神力や体力も同年齢の人たちよりも高く、よく出来たと思います。初めの頃は理想的な動きではありませんでした。しかし、身につけるスピードもだんだん早くなり、武術学校の基礎についてはとても良かったと思います。

 続いて少林寺では、「武」だけではなく「禅」の教えもあります。心と体、“禅拳合一”について教えられました。さらに少林寺秘伝であって、外部には絶対教えない「気」の使い方の訓練では、非常に良かったと印象しています。

 このような内容を公共の番組でアピールできるのは、とても良いことだと思います。NHKの番組ディレクターのUさんは、当初、少林寺や武術などのことはまったく知らない方でした。しかし、この番組のためにとても調べてくださり、私の本「嵩山少林寺秘伝(禅・気・武の源流)」を買ってお読みになるくらい知識を高めて頂いたことが、今回の企画に結びついているのだと思いました。

 私も延開さんと相談して、より良いものになるよう協力しました。代表的な少林寺の「禅」と「武」について、また武術の型「七星拳」の一部を教えました。今回は日程的に長くなく、時間の都合もございましたから、少しだけ教えました。

 

 さて少林寺の「武」について、武井さんは完璧ではありませんが素質があり、覚えるのが早かったです。私が教えてる「気」というもの、また玄空拳や少林寺秘伝72芸などは少林寺のお坊さんより、あまり演武がありませんでした。少林寺の表面的な型だけでなく、また型の演武ではなく、中身の力(人間の身体はどこまでできるか!?)について、いろいろな理由からお坊さんは 指禅しかできなかった。しかし私の方は、鉄頭功、玄空拳、四段功、さらに鞭勁功(少林寺秘伝72芸)の4つを披露しました。そして、そのうち四段功を中心に教えました。また少林寺の「武」、「禅」の根本的なことなど、延開さんは具体的な記述をたくさん残しておりますが、これらを武井さんにお話ししましたところ、すぐ理解して頂けました。そのため、とても指導しやすかったです。

 今回の修業は4日間でありましたが、内容はたっぷりでしたから、番組の放映がとても楽しみに感じております。

 

 現代における少林寺で行われているものは、1,500年以上前からの歴史があり、現代まで伝承されてきたものであり、武術も少林寺から外部へ発展し、様々な武術や武道などに変化していきました。たとえば中国拳法である「長拳」や「太極拳」などは有名ですが、少林寺のものとは、全然違うものになっています。(食べ物に例えれば、ラーメンもあれば刺身もあるといったように、たくさん食べ物が存在していますが、)実際には少林寺は少林寺であり、長拳は長拳であるというように区別されています。ですから長拳を実践している人が(源流である)少林寺のことを理解しているかというと、どんな長拳の達人や有名な人であっても全く別の分野であるため、少林寺のことは分からないのです。もちろんそれぞれに長所はあります。長拳は、『スポーツ武術』として捉えても良いでしょう。肉体的には武術の動きであり、ダイナミックな美しい動作が中心となっています。しかし少林寺の武術はもっと深いレベルであり、心身への働きかけ、実践的能力を引き出すという点などにおいて合理的であり、また当然「気」も使いますし、人間の「禅」も表現されるのです。そういった点など少林寺とは異なります。さらに長拳を行うには、年齢も若く肉体もしっかりしていれば、数年で身に着くことでしょう。しかし少林寺の武術は、根本真髄まで何十年(10年とかではなく)もの訓練によって、その人の素質が変わってくるのです。しかも表面的な型ではなく、人間の真髄の奥深いところまでアプローチしていきますから、同じ「武」でもあきらかに違うのです。

 また太極拳について言えば、それはゆっくりした動作であり、今、世界では『健康法』として広まっています。特に中高年の方たちにふさわしい運動法です。昔の実践的な太極拳は、今はほとんど見られません。ですから今の太極拳には、呼吸法や人間の奥深さへの意識をすることができませんから、とても残念に思います。

 少林寺の場合、1,500年の歴史の中、ずっと寺の中で実践されてきたものです。これはまさに「人類の宝」と言えるでしょう。そして「人類の精神と肉体の財産」、また生命時代としての宝ものが、現代に残っているのは非常に貴重なことであります。このことを知っている私たちにとっては、とても大事に扱われておりますが、世の中の多くの人々はほとんど知りません。

 私たち人類はこの世に生命を受け、存在し生きています。そして誰にも日常生活があり、それぞれご自分の仕事や趣味などがあり、またそれぞれの生き方や人生観があります。

 しかし一回限りの人生ですから、(人生最後に後悔するような生き方ではなく)本当に自分らしさで生きていけるようにしなくてはなりません。そのためにも少林寺の武術だけではなく、「武」と「禅」、そして「気」の訓練や修業により身につけたら、精神の改革、肉体の強化、そして解放がされます。人間として、また人生としての質的な飛躍、あるいは昇華、すばらしい輝きのある人生となるでしょう。

 今回、紹介しましたNHKの番組は、1月30日土曜日の夜7時、NHK BSプレミアムで放映されます。(また当協会でも今後、ご案内していきます。)もちろん協会の会員の方であれば、番組の紹介で“知る”というより、すでに深く広く覚えていると思います。さらに身に着けているべきことは、単に一般的な体操ではない、また一般的な精神世界のことだけではないということを理解することが必要です。

 一人ひとり人生に役立つものとして、さらに意識を高めて身につけていき、それぞれの人生に結びつけることができましたら、もっとこのすばらしさが実感できることでしょう。