第五節 気功による呼吸調整が乱れた場合の生理メカニズム(1)
 無意識に正常な呼吸をした時の呼吸運動の頻度と深さは、呼吸中枢および血液中二酸化炭素の分圧などの要因が関わってくるので、自動調節と制御に依存することよって、肺胞気あるいは動脈血中の酸素や二酸化炭素の分圧が低くなったり、あるいは、高くなったりするという状況はあらわれない。しかし、気功練習者が意識的に呼吸をコントロール・調節すれば、このような働きは、以上の自動呼吸課程の過程を元にして、実現される。そのため、気功による呼吸調整には、限度があり、この限度を超えると、「息が詰まりそうになる、息切れ、憂鬱感、呼吸の乱れ、めまい、手足のしびれ、緊張や焦り、情緒不安定など」といった気功の偏りを起こしやすくなり、身体に好ましくない反応が生じる。生理学に基づいて分析した場合、気功による呼吸調整の偏りは、肺通気の気体交換における障害と関係があると思われる。
(一)誤った呼吸調整が引き起こす酸素欠乏状態について
 ある気功練習者は、ただひたすらに呼吸数を減らそうとして、無理やり呼吸を長くゆっくりしようとしたり、機械的に長く息を吸いこんで短く吐き出したり、息を吸い込む時に比べて、極端に短く息を吐き出したり、むりやり気を閉じたりする。しかし、こうした行為は、肺の酸欠状態を引き起こす恐れがある。体はまだ新陳代謝の低下に至るほどリラックスしていない時に、練習者が無理に呼吸をコントロールして抑える事によって、新陳代謝と呼吸の働きが一致しない結果に至ったからだ。特に息を長く吸って短く吐き出そうとする練習者については、息を吐き出す時間が短すぎると、肝臓から排出される二酸化炭素が減少し、代謝によって生まれる二酸化炭素は適時に排出されないので、通気と血流の比例バランスが崩れ、体内に二酸化炭素が残留してしまう恐れが出てくる。二酸化炭素過多は、脳血管の拡張と脳血流量の増加を引き起こす。このほか、呼吸量の減少は、代謝によって生じた二酸化炭素は血液中に蓄積され、二酸化炭素血症となる。この時腎臓は水素(H)の分泌と、アンモニウム(NH4)の生成を強化し、酸素の排出とナトリウム(Na)回収を加速化して調節するので、血液中の炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)濃度が上昇する。もし体内に蓄積された二酸化炭素(H2CO3)の濃度の速度にともなって、炭酸水素ナトリウム濃度が上昇すれば、両者の比例は正常なままであり、血液中PHは正常な範囲内にとどまっている。これを代償性呼吸酸中毒と呼んでいる。仮に、二酸化炭素濃度の上昇が代償能力を上回った場合、炭酸水素ナトリウムと二酸化炭素の比較値が小さくなり、血液中PH値は低下するので、ここでも代償性呼吸酸中毒があらわれる。以上に述べた状況のもとでは、気功練習者は「情緒不安定、頭痛、めまい、落ちこみ、肉体的疲労感」などの症状が出る恐れがある。