| 連載「少林寺の秘話」 |
| 23.千仏殿地面の練功穴 後編
両方の足にそれぞれ2.5キロの砂袋をつける頃になると、全身が「重身」になってきます。身体の上下バランスが良くなってくるか、そうでなければ足が重く頭が軽くなってきて、武術の練習や労働にも影響が出てきます。この「重身」とは、鋼(はがね)のように鍛えられた腕や胸、背中、肩のことです。これは武術練習をする際の必要性によって、自分で計画的に「重身」をデザインすることもできます。 仮に、全身に15キロ余りの重りをつけることができて、その上で飛び跳ねたり、とんぼ返りを打ったりなどの武術練習が出来た場合、この砂袋をはずした後では燕のように身軽になれるのではないでしょうか? さて、砂袋をくくりつけて、「重身」の練習をすると同時に、さらに「ホウ滑板(ほうかつばん)」や「ホウ立磚(ほうりつせん)」を練習しなければなりません。「ホウ滑板」をする際には、まず高い壁に長い板を立てかけます。最初は板がなるばく平らになるように立てかけますが、そこを駆けあがって壁のある終りまで行ったら、方向を変えてもとの起点まで駆けおります。この練習の時には、後ろを振り向いてもいけないし、後ずさりしてもいけません。練習に慣れてきてスムーズにできるようになったら、木の板の立てかけた角度を、段階を経て徐々に急にしていき、駆けあがって駆けおりる練習を行います。これ以上角度を上げることが出来なくなるまでになり、その角度でも駆けあがって駆けおりることができるようになったら、この練習は完成されたことになります。 この「ホウ滑板」を練習すると同時に、「ホウ立磚」も練習しなければいけません。「ホウ立磚」とは、レンガを使った練習です。まずレンガ三つを、大きめの一歩ぐらいの間隔で、三角形になるように地面に放り投げ、この三つのレンガの上を走りまわります。この一連の動作は途切れることなくスムーズに行われなければなりませんが、レンガを踏めなかった時には、一からやりなおします。すなわち、再びレンガを地面に投げて、レンガの上を踏んで走りまわるわけです。このように失敗のたびに最初からやりなおすのですが、地面に置いたレンガを踏み外すこともなく、倒すこともなくなったならば、「ホウ石筐(ほうせききょう)」を練習する段階に来たという事になります。 「ホウ石筐」には高さ50センチの竹カゴを3つ用意します。この3つのカゴに角のない丸い石を詰め、三角形を描くようにカゴを配置します。「ホウ立磚」時に同じように、カゴのヘリを踏んで、次のカゴへ走り、またカゴのヘリを踏むというよに、カゴからカゴへと走り回ります。このとき、カゴへ行くごとに腰を低くして、カゴに入っている石を一つ拾い上げ、また捨てなくてはなりません。走るのと、石を拾い上げるのと、捨てるという三つの動作は、速ければ速いほど良いとされています。カゴの中の石を全て捨て終わった後も、立ち止まることなく三つのカゴの周りを走りまわりますが、竹カゴが倒れなくなるようになるまで、続けます。竹カゴの内側のヘリを踏む練習が上手に出来るようになったら、ふたたび外側のヘリを踏みます。この練習に習熟したら、重身や砂袋などを取り外しても、燕が飛ぶように身軽になり、家ののきまで飛び、壁を歩くことも出来るほど敏捷になります。 さて、手を鍛えるには、主に「開山捶(かいざんすい)」や「鉄砂掌(てっさしょう)」を行います。 この練習をするには、まず砂袋を地面に埋めて、しっかり固定した木のくいにくくります。大きな砂袋を宙吊りにしても構いません。そして、この砂袋に対して「撃拳(=こぶしで打つ)」や「劈掌(へきしょう=手のひらで叩く)」といった練習を行います。「撃拳」の場合はこぶしで石を割ることができるまで、「劈掌」の場合はレンガが割れるようになるまでです。手がタコだらけになったら、「練插沙(れんそうしゃ)」を行う段階になったということになります。 「練插沙」をするには、まず1メートルの深さがある大カメに緑豆(りょくず=ハルサメやモヤシの原料となる豆。アズキより若干小さい)を満たします。このカメに手を差し込むのですが、慣れていくにつれ深く差し込めるようになります。ザクッという音と共に脇まで入るようになれたら、緑豆をえんどう豆に変え、又脇まで差し込めるようになるまで練習を続けます。最後はえんどう豆を、塩で炒った鉄のえんどう豆に変えて練習します。塩で炒った鉄のえんどう豆にするのは、手や指を差し込むときに血が流れても、雑菌が入って化膿することがなく、タコが出来やすくなるためです。鉄のえんどう豆で満たされたカメに手を差し込み、「ざくっ」という音とともに手の付け根まで入ったら、腕の一撃は「棒」に、手のひらの攻撃は「刀」に、手の指は「矛(ほこ)」に等しいものとなります。 さらには、眼力も練習しなければなりません。眼力を養うには、弓の標的を使う以外に、「梅花銅チュン(ばいかどうちゅん)」を行います。「梅花銅チュン」には長さ3メートルの銅で出来た円筒形の柱を六本、練習場に立て、直径5メートルの円を描くように囲みます。そして、この中で刀や棍棒、剣などの武器を使って練習するのです。どんな種類の練習であれ、武器が柱についてはいけません。武器が動く音が銅の柱にあたって、「ヒューヒュー」となるのはいいのですが、柱に当たって音がなるのはいけません。 このほかにも様々な練習方法がありますが、どれも長時間にわたって苦しみながら続けなければならないものばかりです。昔から、少林寺の武術は、血や汗を流して長期間の練習に耐えて、はじめてやっと習得が出来るものなのです。 |