「NHK撮影時、なぜ武井壮さんに『四段功』を指導したか?」

 (前回の「今日の言葉」でご紹介しました)昨年末、NHKの番組撮影の協力のため、私は少林寺に同行し交渉、そしてメインで登場しました(タレントの)武井壮さんに、私たち全日本少林寺気功協会の中で最も「気」の基礎にあたる『四段功』を指導しました。
当協会のシステムには、気功動功や静功、また指導員Ⅰ~Ⅲ、さらに外気治療法等まで含めると、2~3百種類の方法があります。中には見た目で迫力のあるものや指導員Ⅰ~Ⅲの中にもかっこいい動きのあるものもありますから、テレビの視聴効果を考慮すれば、その中からという選択もあります。
しかし今回は、塔溝武術学校での修業及び延開さん(少林寺僧侶)の指導の間に、私は主に「気」の訓練を教えることになりました。気の訓練にもポーズがありますが、その中には動作、そして呼吸があるのです。実はNHKの撮影期間は短く、その間に伝えるべきことが膨大にあったのです。武術の基礎、「禅」、また武術で使う武器などもあります。ですから、あまり「気」の訓練に時間がとれないという現実がありました。武井さんも初めての武術学校での  五歩拳と少林寺の七星拳もあり、また少林焼火棍の訓練など、どんどん練習が続きましたから、覚えることがたくさんあったので精一杯の状態のようでした。気力、そして体力も十分、心身共に強い方でしたが、やっぱり人間ですから、それらを実践する武井さんの立場も考えて、できれば少林寺の真髄的なもの(しかしあまり形にこだわらない、そしてポーズに時間のかからないようなもの)も行うべきであり、私は四段功の修業が一番だと判断しました。

この四段功は、少林寺秘伝72芸のうち第11芸です。総合的に「内面(イメージと呼吸)と外面(動作)」、そして「陰と陽」や「剛と柔」を表し、形は難しくないですが、中身は 充実で内部と外部のつながりを鍛えるものです。そして四段功は72芸のうち、唯一の型のものです。他は身体の各部分に対して強く、特別な能力を鍛えるものです。しかし四段功だけは身体に対し強くないにも関わらず、全身に「気」を充満させて元氣になって健康でいられます。疲れも無くなり、全身に気が巡り、満たされるので病気をしない体になります。そして、他の各部分の鍛える肉体のための基礎と土台を作ります。〈たとえば鉄頭功、指禅、鉄のパンチ、鉄の腕や脚といった様々な技や動作などが72芸にはあり、また軽気功や全身や腕、または脚の能力を高めるためには、基礎の基礎がとても大事なのです。〉
実際に四段功は、始めやすく練習もしやすい動作です。第一段~第四段までの4つのポーズで成り立っておりますが、誰でもすぐに覚えやすい内容です。
まるで運動前の準備体操のようです。でも中身は、少林寺の真髄がある。 たとえば簡単に見える第三弾の動きの中に、左手は守っている形ですが実は特別な左手による関節技であります。右手の攻めに対し、パンチを受けながら相手の腕を捕まえるのです。さらに向きを変えて右へパンチを出すときの4段階のレベル(これについては、テレビの中で詳しく説明しますが・・・)がありますが、この“レベル”についてはすべての武術(どの流派であっても)においても、パンチの出し方の極意です。
 四段功の呼吸法、また意識の使い方は少林寺気功の中で一番であり、最高のものです。内面(イメージと呼吸)をして行いますが、訓練はしやすいのです。いくら難しい技やかっこいい動作を行っても、逆に内面に意識がいかずに終わってしまいます。自分の集中力は、かっこいいポーズの表面にいってしまうのです。そのためポーズの要領や完成度だけで精一杯になり、中身(心と体の統一)までいかなくなってしまうのです。もちろん長年訓練を積んだ人(ベテランの方)は別ですが、初心者が実践する場合には内面と外面を鍛えるために、ポーズをより簡単な動作にすればするほど、本人は内面に意識がよりいきやすくなります。

 実際、武井さんは修業や四段功の練習に疲れてしまっている時、私が指導するのは肉体的なことではなく、身体にあまり負担のかからないように少林寺の根本的な「気」や「武」の真髄深いところもあるということを教えました。武井さんも最後の頃、なかなか訓練の成果が見られない状況の中で、私の言葉を思い出して“全身を統一”しました。よって、体が一つになるようによく動くようになりました。具体的要領を思い出して、「やっぱり秦先生がおっしゃった通りです!」と言いました。今回、指導した四段功は一番簡単だと思えるものですが、少林寺の真髄的なもの、且つ根本的なものです。これを伝えられるということは、「教える魂」と感じます。

 ところで3万人も生徒がいる少林寺の武術学校には、講師(コーチ)も何千人といると思いますが、その中で選ばれる講師(もちろん私の後輩である延開さんも同様ですが)すごく優秀で中国のテレビにも出るような人です。「少林寺」で有名な映画俳優ジェットリーも教えるウーピン先生など、私も見て聞いて感じますのは、武術の形(腰の使い方・・・など)、その表現方法ばかり強調するような指導が目立ちます。
しかし本物の中国武術、あるいは少林寺の本質について、本当に教えるために私は武井さんに『四段功』を指導しましたが、深く感銘し理解して頂けました。ですから今回中国へ同行し、そして指導できたことには、とても満足しております。さらに武井さんにはしっかり伝えるべきことは伝えられましたし、お会いできてとても良かったと思います。

 今回のように少林寺の武術を習得する際、決して見栄えがいい動作のものばかりでなくても、それが簡単な動きのものであっても、深いレベルのものを伝えることができるのです。もう一つ、修業を行う場合、「修業の魂」が必要であり、素質も大事であります。
また教える側にも「教える魂」が大事であります。指導の時、表面的な動作などに意識がいってしまい、こだわっていて、相手の身体や中身を見ず、自分の伝えることばかり注目させて「これが正しい!」などと説明している指導者はだめです。自分の気持ちや知識だけ相手に伝えるというスタンスではいけません。そういう指導では受ける側の効果も薄くなってしまいます。相手のことよく理解できるように伝えるべきことをしっかり伝えられるよう、今回は『四段功』を選びました。ある武道家の話ですが、日本一ともいえる武道団体の上クラスの方で、40~50年間練習していると武道は上達しないとのことで、最後は「気」を感じたそうです。そして私の著書「少林寺気功の力」の中のDVDを見て、四段功を練習して、ご自身のレベルが上がっていき、さらに自分の生徒(弟子)に教えてとても楽しい旨のお手紙をお正月にいただきしました。こういうお話を頂けて、非常にうれしく思います。簡単な動作である『四段功』ではありますが、世の中に役に立っていて、とてもすばらしいと思います。