大乗仏教の禅宗の教義は、六祖の改革によって、中国人の心に合うようになりました。

だから六祖は歴代の中で皆に有名な師と言われています。
少林寺の六祖には、六祖乱法の他にも、出家が後で先に祖師になったという話があります。
六祖となった経緯は、慧能が書いた詩が神秀よりも五祖から高い評価を得たことによります。

慧能は五祖弘忍の後を継いで、禅門の六祖になりました。その後、五祖に見送られ揚子江を渡り南の方に走りながら向かいました。二日目の朝、慧能は前に進んで歩いていると、急に後ろから大きな声がします。
「南からきたお坊さん、どこへ行くのですか? 私は追いかけてきました。」
後ろを振り返ると、もともと将軍だった慧明が急いで追いかけてきます。この人は、人の命を奪ってしまったことをお坊さんになって罪を償おうとしています。

慧能は、こうやって追いかけてくる人たちが、五祖から受け継いだものを争って奪おうとしてることをわかっていました。後ろから来るその人は、1日百キロkmも走れるし腕は何百キロの重いものも持ち上げられる強さを持っています。自分が戦ってもかなう相手じゃありません。
そこで慧能は、五祖からもらったお坊さんの木綿の服を、大きな石の上に置いて自分は草の中に隠れます。五祖から受け継いだものは、形として無くなって証明することができなくても本当の禅の法はもらっています。だからこうすれば大変なことには巻き込まれなくて済みます。

追いかけてきた慧明は石の上の袈裟を見てこう思います。
「この達磨大師の袈裟はあちこち破れているし、なんだか優れたものにも見えない。この服では外にも出られない。」と諦めました。
でも、自分は何の為に来たのか、そこで思い出したので慧能の名前を呼んで話し掛けます。
「わたしは、この袈裟を奪いにきたわけではなくて、法を習いたいと思って来ました。」この言葉を聞いて慧能は外に出ます。「もし、あなたが本当に仏法を習いにきたのなら、自分の心の欲望を止めて、競争の心は止めて下さい。何も思わず考えずにいれば、私は話しやすいし教えることができます。」そうすると少しして、慧明はなんとなく雑念は押さえました。

慧能は、こう話しました。
「今、あなたの欲望は止まった。でも少し自分のことを思い出してみてください。自分の本来はどういうものでしたか。」慧明は聞いて少し考えると、「自分はもともと欲が深い、色々なものを手に入れたい。これは武の人です。これでは仏教の無と合わないです。」そして少し溜息をつきながら、「私は黄梅県で武術を長い間習ってきたが、こういうことは全然悟ってなかった。」こう話しながら、すごく恥ずかしく思い慧能に拝師します。そして慧能を守る人になりたいと希望します。

そして慧能を南に送り、後を追いかけてくる人達には「慧能は別の道に行きましたよ。」と言って、他の道に行かせて、慧能が見つからないようにしました。この追いかけてくる人たちは、もともとは神秀の生徒です。神秀は、禅門の六祖になれなかったので、この人たちはいくら頑張っても七祖、八祖と跡を継いでいくことはできない。だから慧明をそそのかして慧能を殺すように仕向けようとします。
慧明はその人達に向かって、仏教の十善を話し「こういうことはいけないです。」と言いました。
神秀の弟子達は慧明に慧能を殺させるのは無理だと思いました。そこで高いお金をつみ、軽功ができて飛ぶ猫と呼ばれるチョウを殺し屋として雇いました。

慧能は、商人や農民の中にあちらこちらと隠れながらも殺し屋チョウの危険を感じていました。
ある日、山の中を歩いている時に前の方から、泣いている声がします。見るとひとりの若い女がお墓の前にいました。死んだだんなさんのひとりだけのお葬式のようです。六祖慧能はこれを見て、なんとなく仏教の臨界の苦しさを感じました。

そこへ急に大きな一頭の虎が現われました。虎は若い女に近寄って危険です。
六祖の慧能はすぐ自分の手で虎の首を押さえ、右の拳を打って押さえました。
そうすると女の人が急に「ワーッ」と叫んでます。別の虎がもう一頭現われました。
慧能はこの虎も捕まえて持ち上げ、先ほどの虎とぶつけました。
二頭の虎は殴られぶつかって最後は逃げてしまいました。

ここには、猟師達の仲間がいました。慧能は身分を隠してそれに参加することにしました。ここにいる方が、殺し屋の目もくらませられるし安全だと思ったのです。慧能は、私は食事も作るし、虎が来た時には私が戦いますと申し出ました。そうするとその人達は皆喜びました。皆が一番苦手なことがこの二つだったのです。そして皆さんに受け入れられ、慧能は生活を始めました。ただひとつ困ったことがありました。皆は、捕まえた動物の肉を食べるのが普通だったのですが、慧能はお坊さんですから一緒にするわけにはいきません。皆には、自分は菜食者でお肉を食べたら病気になると話し、野菜だけを食べることにしていました。

そうして暮らしていたある日、慧能が外を歩いていると、子供が鰐に襲われようとしている危険な場面に会いました。3mくらいもの大きさの鰐が子供に迫ろうとしています。慧能は自分の命をかけて、鰐の首を蹴って子供を助けました。子供は助かったのですが、鰐のしっぽが慧能の腰とお尻にぶつかって、慧能は怪我をして倒れてしまいました。

そのあと皆さんに助けられ気づくとある家にいました。前に慧能が虎から助けたあの女の人の家でした。鰐から守った子供のお母さんだったのです。慧能はすぐ起きて帰ろうとしますがまだ動けません。周りのみんなが呼んでくれた医者は「動いたら骨が危ないです。」まだ残っていてくださいと言います。慧能は自分は怪我をしたけどお坊さんとして当然のことをしたので後悔はしていませんでした。

その女の人にとっては慧能は、自分の命と子供の命まで助けてくれた恩人です。自分は慧能のお嫁さんになりたいと思ってるようです。周りの人も、これは天の神様の意志により二人には夫婦の縁があると言い出したので、慧能は大変でした。若い人同士なのだから是非結婚したらいい、などと言われます。みんなは、慧能が僧だということを知らないのです。もしここで身分を知らせてしまうと、殺し屋に見つかってしまいます。そういう事情から非常に苦労して何とか結婚を断りました。どんな時にも六祖慧能の禅の心は動かすことはできなかったのです。

そうしてあっという間に15年の月日が経ちました。身分は隠しながらの普通の人としての生活の中で、自分には六祖の姿勢を要求することを忘れませんでした。ある日、広州の法性寺で管長がお経を話すところに慧能はいました。そこで、ふたりの僧侶が旗を見て違うことを言い始めました。ひとりが、旗は風に吹かれて動いていると言う。もうひとりは、違います、旗が動いているのですと言う。

そこで六祖慧能は、「風でも旗が動くでもなくてこれは二人の心が動いています。」と言います。するとこういう言葉に周りの人は皆驚きます。印祖管長は、非常に尊敬してこう聞きました。
黄梅県から来た禅宗の伝法人とはあなたのことでしょう。そして皆は六祖に大きな礼をしました。六祖は出家の礼式をし、このとき正式にお坊さんになりました。六祖の身分が知らされるとすぐに慧明と弟子達も皆集まって来ました。

殺し屋チョウもそれを知り、六祖の部屋に剣を持って忍び込んできました。ところが、足を踏み入れた途端に「あなたは何をしているのですか。」と慧能の声がします。チョウは少し驚き、でもすぐに気を取り直して「あなたは私が何をしにきたかわかっているようですね。では隠さず言いますが、今夜は私はあなたの頭を斬りにきました。」と告げます。
それを聞いて六祖は「あなたは200両の銀で雇われて私を殺しに来たのなら、今日は私は、もっと大きなお金を渡しましょう。これは金です。そうしたら私の頭はそのまま残しておいていいですか。金は机に置いてあります。あなたはそれを持っていきなさい。」

チョウはそれを聞いてすごくびっくりして身体が震えてしまいました。「なぜあなたは私の事をそんなに知っているのですか。」六祖は「あなたは早く金を持って逃げて下さい。もしそうしないと
あなたは多分帰れなくなると思いますよ。」チョウは、もう金などもらわなくていいから今にも逃げたい、早くここから立ち去りたい気持ちです。

ちょうどその時にチョウの名を呼ぶ大きな声が響き、元将軍の慧明の刀が首に向けられていました。チョウは「助けて!助けて!」と言います。六祖は「慧明、やめなさい。その人は帰してあげましょう。」と言いました。
チョウはその名を聞いて、あの将軍だった慧明に気づきました。そしてチョウも六祖を守る人になります。その二人は後に六祖の得意弟子になりました。