歴史上、少林寺では最も盛大な精進料理の宴会が全部で三回行われました。第一回は629年で、唐の太宗・李世民(り・せいみん)が自分を救った武僧に感謝して少林寺にやってきとき行われたものです。第二回はその四十一年後に皇帝と則天武后(そくてんぶこう)が少林寺に来た時で、「龍鳳宴(りゅうほうえん)」を寺側で設けました。第三回は元(げん)の1292年に世祖・クビライが寺を訪れた時で、「飛龍宴(ひりゅうえん)」が行われました。
 第一回の「蟠龍宴(はんりゅうえん)」では六十種類の料理が出されました。主菜は「老龍蟠窩(ロウリュウハンワ)」でしたが、太宗が一番気に入ったのは「少林八宝酥(ス)」という一種のさくさくした揚げ物でした。(揚げクッキー)その料理が出てきた時、その場に非常にいい香りが漂ったのですが、太宗は口にするやいなや美味に大喜びし、その場にいた宰相(さいしょう)や将軍も皆「おいしい、おいしい」と褒めたたえたとのことです。そのとき、太宗は喜びのあまり、詩の1種である詞(し)まで作りました。第二回の「龍鳳宴」ですが、そのとき百二十種類の料理が作られました。主菜は「龍飛鳳舞(りゅうひほうぶ)」という料理でしたが、則天武后が一番気に入った料理は「万花湯(ばんかとう)」というスープでした。食事が終わった後、高宗はコックに命じて、わざわざ「万花湯」の作り方を学ばせたほどです。第三回の「飛龍宴」では九十種類の料理が作られ、主菜として「鯉魚跳龍門」という料理が出されました。少林寺で作られた料理なので、もちろん鯉など動物性の食品は使われていません。しかし、クビライが気に入ったのは「中岳八景(ちゅうがくはっけい)」」という料理でした。この「中岳」とは、少林寺がある嵩山(すうざん)のことです。
 少林寺の精進料理は非常に特別なものです。素材としては、野菜類、豆腐、揚げ麩、ハルサメ、植物油を主材料とし、そのほかにキクラゲや特殊なキノコ、昆布、山菜類も使います。また、揚げる、焼く、煮る、蒸す、炒める、生食など様々な料理法を使って多様な料理を作ります。また、材料の切り方や火の加減、色形、味についても非常に気を配っているので、贅沢に慣れた皇帝からもよく驚きと賞賛を受けました。少林寺は山間部にあるので、山で採れる食材を使う事が多いのですが、野趣あふれる香りと味わいがあるだけではなく、こうした食材は筋肉の強化や経絡の活性化、精神の活性化、健康増進、知能の増強、長寿などにも効果があります。少林寺の僧侶はこうした食材を寺に伝わる貴重な家宝と考えています。
 さて、則天武后に絶賛された「万花湯」について、少しお話しましょう。たくさんの花のエッセンスを集めたものなのですが、蜂蜜(はちみつ)に、山の特別な涌き水、菊や金銀花(きんぎんか)などの花に、みかんの皮などの漢方薬を加えて作っています。そうして作ったスープは、口にいれる前からいい香りがし、口に入れれば頭もすっきりし、目をすっきりさせ、食欲は増進し、疲労を解消し、脾臓(ひぞう)を活性化させ、肺機能の向上という数多くの効能もありました。
 また、元(げん)代のクビライが気に入った料理「中岳八景」は少林寺にある中岳の八つの風景に見たてて作った料理です。それは見た目の美しさだけではなく、色や香りや味や栄養の価値が非常に高かったので、評判が良く、喜ばれたのでした。